riddle 〜アリスの悪戯〜



「ねえ、ボリス。なぞなぞをしましょう?」

前後の会話もつながりもない突然の提案に、ボリスはきょとんっとして今まで擦り寄っていた少女を見た。

茶色の髪のスカイブルーのエプロンドレスを着たこの部屋の主、アリスはボリスが同じ事を提案する時のような悪戯っぽさは全く感じさせない、妙に緊張したような顔をしていた。

「アリス?」

「なによ。」

しっぽだけはくりんっと彼女の腕に巻き付けたままボリスが呼びかけると、なんだか居心地悪そうにアリスはぶっきらぼうに答える。

(なんか、おかしくね?)

ボリスは頭の中で首をかしげる。

なぞなぞ、というゲームを仕掛けるにしてはそぐわないアリスの雰囲気と唐突な提案。

さて、どう答えるべきか。

ほんの一瞬目を細めてボリスはつっとアリスに顔を寄せる。

「俺、なぞなぞは出されるより出す方が好きなんだけど。」

「・・・・私のなぞなぞには興味ない?」

ちょっとムッとしたように返してくるアリスに、ボリスはくすっと笑って首を振った。

「そんなことあるわけない。あんたの事だったらなんだって知りたい。」

「っ、バカ。」

「本心だぜ?」

本当にそうだったので、念のため付け足しておくとアリスは赤くなって困ったように視線を彷徨わせる。

普段気が強くて意地っ張りなアリスが見せるこんなちょっとした隙がボリスはたまらなく好きだ。

(あ〜、なんでこんなに可愛いかなあ。)

双方の意志合意の上で恋人と呼べる関係になってからは、ボリスはこんな時の欲望には忠実に動く。

というわけで、今回もちょっと顔を傾けてアリスの可愛らしい鼻先に軽いキスを落とした。

「ちょっ!ボリス!」

「ほんと、あんたって可愛い。」

「あ、あんたねえ」

恥ずかしさのあまりに怒り出しそうになっているアリスの唇に、ボリスはちょんっと人差し指で触れてウインクをひとつ。

「一応、我慢したんだぜ?唇にしたらアリスの仕掛けるゲームなんかそっちのけで俺の好きなことしちゃいそうだからさ。」

「〜〜〜〜〜〜〜〜」

「で?なぞなぞ、するんだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・する。」

かなり悩んだような間があったものの、結局頷いたアリスは何故か小さく深呼吸をしてボリスに向き直った。

「ボリス。」

「ん?」

「私が好きなモノってなんだ?」

「え?」

なぞなぞというには稚拙なそれに、一瞬答えに窮してアリスを見れば、アリスはさっきの赤さを引きずったままそっぽを向いていた。

そして見つめているボリスをちらっと見て。

「・・・・わかんないの?」

「わかんないっていうか・・・・」

アリスの求めている答えがわからない。

ここで「俺?」などと答えるのが恋人達の戯れのお約束だろうが、それをしたら冷めたところのあるアリスに鼻で笑われそうな気もする。

(けど食べ物、とかじゃないよな。趣味、でもないし・・・・)

珍しく真面目に考えてしまったボリスの様子に、何故かアリスはため息を一つ。

「ヒント、あげるわ。」

「?」

「・・・・面倒くさいもの。いっつも頭の中を占領してて、だんだん私をアホにしていくのよ。困らされてばっかりで、時々意地悪で、銃が好きで、無茶ばっかりして。」

最初躊躇ったわりに、次々に出てくる言葉達に、ボリスは目を丸くする。

(ちょっと待てよ。これってまさか、難しい謎かけなんかじゃなくて・・・・)

珍しく頬が熱くなった気がした。

いつも自分の片想いなんじゃないかと思うぐらい冷静なアリスが。

強請っても滅多に言葉なんかくれないアリスが。

「・・・・もう、わかんないの?」

苛立たしげに、といっても赤い顔のままでアリスは軽くボリスを睨むととうとう決定的な言葉を口にした。
















「私なんかを殺されてもいいぐらい好きだなんていうバカ猫よ!」
















思わず、口を覆った。

「・・・・ちょっ、それ、反則。」

「な、なにが!」

完全に照れ隠しと分かる態度で怒鳴るアリスに、ボリスは手を伸ばした。

危うくそっぽをむきかけていた頭と肩を掴んで引き寄せれば、転がり込んでくるアリス。

「ボリス!」

「・・・・あんたって、ホントに」

いつものように「可愛い」と言おうとして、そんな言葉じゃ足りない事に気がついた。

可愛い、可愛い、可愛い可愛い・・・・何回言っても絶対に足りない。

だから代わりにぎゅっと抱きしめてアリスの耳元で囁いた。

「好きだよ、大好き。」

「・・・・勝ったのに、負けた気分。」

腕の中でくぐもった声でそう言われてボリスは弾けるように笑い出した。

「それじゃ、勝ったご褒美にアリスの言う事を聞こうか?」

「そうね。そのぐらいしてもらおうかしら。」

すました顔でそう言うアリスに、こつんっとボリスは額を合わせて言った。

「いいよ。あんたの言うことならなんでも聞いてあげる。」

「そう・・・・じゃあ、耳を貸して。」

やっぱりどこか居心地悪そうにそう言うアリスに、ボリスは素直に耳を寄せる。

そして、耳に囁かれた言葉は ――
















ずっとそばにいてよね
















―― なぞなぞで勝ったアリスのご褒美は、とろけるような顔で笑ったボリスからの甘いキス。





















                                              〜 END 〜















― あとがき ―
ものすごいいちゃいちゃさせやすい、この二人(笑)
ボリスといる時のアリスは悶絶するぐらい可愛いと思います。